生音とクラブ系の音を混ぜた曲のミキシングが難しいねっていう話(分析編)

どうも、先日EPをリリースしたにも関わらずサイトの更新を忘れてたNA7です(秋M3は当選したので今度こそ更新忘れないようにしたい)

この度は毎年サーバー代払ってるにも関わらず大した事してない気がしてきたので曲作りについてのお話をしていきたいと思います。


  • 生音とクラブ系の音を混ぜた曲作ってみたくない?

  • この度しなちくシステムさんと「Vernalization」という曲を合作したのですが、このように生音とクラブ系の音を混ぜた曲ってめっちゃかっこいいんですね(自画自賛)。

    というわけでこんな感じの曲を皆さんにガンガン作ってみてほしいのですが、いかんせん「参考曲が少ない」のと「ミキシングが難しい」という問題が発生するのでまずは参考曲聴きまくって気持ちを高めてほしいです。

    BLUE REFLECTIONのBGM試聴コーナー


  • 何故ミキシングが難しいのか

  •  

    1. 生音とクラブ系の音の比較

    2. まずは生音を主体にした曲とクラブミュージックを主体とした曲を比較してみましょう。
      生音代表はBGMのミックスがすっきりしていることに定評があるアトリエシリーズの「夢へ続く街」です。

      次にクラブ代表は今回作った曲の参考元である「The Fomula」です

       
      ぱっと聴きの感想では夢へ続く街はBGMらしく雰囲気を重視しており、様々な楽器を調和させているように感じます。それに対してThe Fomulaは曲全体の迫力を重視しており、ひとつひとつの楽器を目立たせているように感じます。

      それではこれらを文明の利器(Waves H-EQ)を用いて比較していきます。

      まず初めに、これらにアナライザーを通して周波数ごとの音量を確認します。

      (図1:夢へ続く街の波形)

      ・低音成分
      夢へ続く街の低音成分に目を向けてみると、70Hzを基音としたギザギザした波形が確認できます(詳しくは基音と倍音で調べよう)。これは主にベースが鳴っていることが照会から分かります。

      (図2:ABPLの波形(ABPLは無料で使える優秀なベース音源なので是非落としておきましょう))

      また、照会からは読み取れませんでしたが、ここに更に打楽器の低音成分が100Hzあたりをメインに鳴っていることが耳で確認できました。
      よって夢へ続く街では、低音成分は主にベースと打楽器によって構成されていることが分かります。


      (図(3)The Fomulaの波形)

      一方、The Fomulaは照会からほぼキックで低音を補いきっていることが分かります。(一応ベースの基音が50Hzあたりで鳴っていますがキックに比べると地味)また、夢へ続く道に比べると低音域の主張が激しいことも確認できます。

      (図(4)VDUB2 Kick 5の波形(Veangence Essential Dubstep vol.2に入ってます))
      これらより生音系では低音域はベースで埋めるのが一般的、クラブ系ではキックで低音域を埋めるのが一般的であると仮定することにします。

      ・高音成分
      そして今度は高音成分に目を向けると、どちらも波形が平坦に近い状態になっているように見えます。普通生音系の高音域は楽器の倍音の出方を考慮するとそこまで高音は出ないのですが、そこは製作者の腕によるものでしょう。
      余談ですがこのようにアナライザー上で平坦になっている状態は耳に刺さるような音量が飛びぬけている周波数が存在しないため、耳に優しいサウンドになります。

      一応比較だけすると、夢へ続く街はところどころ音量が飛びぬけている周波数帯が比較的存在することが確認できます。これは生音特有のクセで、これを生音らしさと定義することも出来ます。

      一方、The Fomulaの方は少しだけ高音域が全体的に盛り上がっており、これはシンセの倍音成分とリバーブによる盛り込みによるものだと考えられます。(リバーブが低音側にもかかると音がモゴモゴしやすくなるため)

      ・サイド成分
      アナライザーの確認をしたところで次にH-EQに搭載されているSide成分だけを抽出する機能を用いてSide成分がどうなっているのか確認します。

      (夢へ続く街のサイド成分を抽出したもの)

      このようにパンを振ることでサイドに置かれた楽器がくっきり聞こえることが確認できます(例外として打楽器はステレオエンハンサーを使っているみたいです)。パンを振ることによって曲の立体感を演出していると考えられます。

      (The Fomulaのサイド成分を抽出したもの)

      形容しがたいものを抽出することに成功しました。これはリバーブ成分であると考えられます。
      The Fomulaはほぼ全ての楽器をセンターに置く事で迫力を出し、なおかつサイド成分にリバーブ成分を置くことで重厚なサウンドを作ろうとしています。

       

      ここまで比較したものをまとめると以下のようになります。

       

    3. 参考曲のヤバさを確認しよう

(2回目)
 

両方の曲のミキシング方法をそれとなく確認したところで上のほうで挙げた参考曲「PandorA」を聴いてみると
・全体的にはクラブ寄りだが、生音(主にピアノ)をシンセや目立つバイオリンに上手いこと差し込んで両立させている
・ていうかワブルベースで全てかき消されるはずなのに何故かピアノが明確に聞こえる(0:55~)
・バイオリンは音圧出しすぎたら普通はバリバリ音割れするはずなのに何故か割れてない
・クラブ用の太いキックと生楽器を併用すると音圧バランスが崩れるはずなのに何故かバランスが整っている

 

………….バケモノでは?

 
というわけでこれらの参考曲はオーバーテクノロジーの上に成り立っていることが分かりました。ここから先はこのオーバーテクノロジーにどうやって近づくことが出来るのか試行錯誤した結果を読者にお伝えしたいと思います。


  • 目指すサウンドについて

  •  

さて、実際に生音とクラブ系の音を混ぜる曲を作るに当たってまずはどういうサウンドを目指すべきかを決定していきます。

  • 低音域編

  • まずPandorAの低音成分はキックが低音成分の主体になっていますが、イントロやワブルベース地帯の前などにブゥゥ~~~ンwって感じのベースがちょくちょく入り込むという構成になっています。

    キックに目を向けてみると、一見一般的なダブステップのキックですが、本家ダブステップに比べるとドムドムとした質感が強調されているように感じます。

    (本家ダブステップの例)

    このドムドムとした質感はキックの低音部分(主にリリースの部分)を強調すると増幅されやすく、逆に高音成分(主にアタック部分)を強調すれば本家ダブステップのキックの質感に近づくものと考えられます。(他に要因はありそうですが)
    (VDUB2 Kick 5の原音→ディストーションで低音を強化した場合→EQ&コンプで高音を強化した場合)

    次にベースはブゥゥ~~~ンwって質感を出すためには低音の強調に加えて、高音成分に対比強調が入っていると考えられます。(周波数帯の差によって補色の関係が成っているようなものです)
    (お汁粉に塩的なことが音でも出来るの図)

    これらをアナライザー上の図にしてみるとこうなります。

    (倍音は考慮すると複雑になるので省略してます)

  • 中音域編

  • 生音とクラブの比較の話では中音域を飛ばしていましたが、これには違いがよく分からなかったという大変情けない事情があったのでここでは一般的な話をしていきます。

    中音域は人の喋り声がちょうどこの帯域に来るため、一番目立つ楽器、すなわちメロディーが大体ここら辺の帯域に来るのが一般的とされています。(参考曲も全部300~500Hzあたりにメロディの基音が来てます)
    しかし、夢へ続く街は本来はBGMであるため、人の喋り声の邪魔にならないように逆に中音域が目立たないようになっています。
    一方でThe Fomulaは迫力にマージンを割いているために迫力が出やすい低音域と高音域を強調していることから、こちらも中音域が目立たないような仕上がりになっています。

    話を戻すと、PandoRaに関してはメロディの強調と迫力を両立させているバケモノですが、どのように処理しているかというとメロディとなるバイオリンは中音域と高音域の間、ワブルベースは低音と中音域の間の部分で響かせることで強調と迫力を維持しているようです。(この場合の中音域は大体400Hz~500Hzあたりを指します)

    これらをアナライザー上の図にしてみるとこうなります。

  • 高音域編

  • 中音域編ではバイオリンは中音域と高音域の間に置こうという話をしました。しかし、バイオリンは中音域で響く楽器なのでここで矛盾が生じてきます。そこでPandorAを聴いてみると、本来バイオリンやピアノから発せられないような高音域が存在します。これがPandorAのメロディが強調していたり音圧という名の迫力が出てたりする仕組みその2であるのですが、普通に高音域をEQで持ち上げてもこんな鮮明なサウンドにはなりません。そこでこの曲のバケモノポイントを振り返ってみると「バイオリンは音圧出しすぎたら普通はバリバリ音割れするはずなのに何故か音割れしない」という項があります。

    …これ実は音割れしているのでは?????


    ・Let’s 音割れタイム

    音割れというのはピークが0dbを超えることで起こるバリバリしてる音のことですが、コンプレッサーなどの掛けすぎやディストーションなどのエフェクターによって人為的に起こすことが出来ます。音割れが起きると波形は矩形波のように直角に波形を曲げられるので矩形波に近い倍音成分を引き出すことができます。(要はどこからともなく高音成分が現れる)

    最近のディストーションは優秀なので音割れ感を出さずに音割れさせ、音圧を上げたりムリヤリ高音成分を引き出すために使われることもあるみたいです。そういった用途のディストーションをソフトクリッパーとかサチュレーターとか言ったりします。

    そこで今回はサチュレーターのSausage Fattenerを使って前後の音の変化を比較してみました。

    Sausage Fattenerはディストーション+リミッターの効果を調整するFatnessノブと高音成分をどれだけ引き出すか調整するColorノブに分かれます。
    この二つを駆使するとこのような具合に高音成分が出てきます。


    (素のバイオリン)

    (Fatness15%)

    (Fatness15%+Color100%)

    (上から順に音の比較)

    Sausage Fattenerは低音を強化するタイプのサチュレーターなのでバイオリンにはあまり適さなかったりするのですが、Colorノブを上げることによって高音成分を生えさせることができます。ただこれは結構な力技なので高音成分を強められるタイプのサチュレーター等を探すといいかもしれませんね(いいやつがあったら教えてください)

  • サイド成分

  • まずは上でやったようにPandorAもサイド成分を抽出してみます。
    (ちゃんとした音源が無かったので音質がアレなことになってます)

    このように主にストリングスとワブルベースのサイド成分がはっきりしているのでこの二つはステレオエンハンサーが使われており、更に他の楽器もほんのり明確に聴こえてくることからマスターにもステレオエンハンサーが使われているみたいです。

    逆にスネアやピアノのように深くリバーブが掛けられている楽器はリバーブによって音の立体感を出すと同時にそのリバーブがある程度サイドに割り振られているという構成になっています。ピアノに関しては原音をサイド成分に送りながらもリバーブのプレディレイというリバーブのかかり始めを指定する機能を使って音の重なりを作り、ワブルベースの迫力を維持させながら自らを主張させているようです。
    (音の重なり:音どうしの隙間の部分にリバーブの残響音が入ってマスタリングの際にその部分の音量が上がるため、その楽器が主張される。)

    (ステレオエンハンサーおよびリバーブを使用する前後の比較)

  • まとめ

  • ・低音はキックとベースで埋めるがベースは高音系のレイヤーを重ねて対比させる
    ・400~500Hzあたりを避けるようにやや低めのコード楽器(例:The Fomula)・ワブルベース・リード等を中音域に割り振る
    ・バイオリンのような生音系のリードはサチュレーター等で高音域を持ち上げる
    ・基本的に高音域側で目立つ楽器はステレオエンハンサーでサイド成分を強め、他の主張させたいけど主役でない楽器はリバーブのプレディレイを用いる

    あたりをやると若干M2Uに近づく気がする

  • この先の話について

ここまではいかにM2UのPandorAのサウンドを再現するかについて話してきました。しかしこの分析結果が本当に正しいのか保証できかねるのとまだまだ不明な点が存在するので、皆さんで各自研究してみてついでに自論を公表して欲しいなっていうのが本音です。

ただここまで話しておいて放り出すのもアレかなって思うので次回は実践編として一番上で紹介した「Vernalization」を作った時のミックス方法を紹介していく予定です。
この記事書くのに2週間かかって既にしんどくなりつつあるNA7先生の次回作にご期待ください!